第十三章 決死の山越え 

 

オメガは一人、山道を歩いていた。前方に仲間の姿はない。さっきまでは懸命に自転車をこいでいたのだが、ついに肉体の限界に達してしまったようだ。

「静かだ・・・・・。」

鳥のさえずりと、どこかで流れている川の音以外は何も聞こえない。周りは薄暗く、見上げた空は白かった。

山頂はすぐそこにあるように見えるのに、なかなかたどり着かない。そして、気のせいか同じ場所を何度も通った感じがしてくる。

「魔界に入ってしまったか・・・・・。」

オメガは密かに印を結んだ。もちろん、魔界から脱出するためだ。しかし、周りの景色は変わらない。

「考えすぎか・・・・。」

オメガはそうつぶやくと、再び山道を登り始めた。

上へ上へと進むにつれて、しだいに川の音が消えていく。そのうち、小鳥の声もしなくなった。

「カラカラカラ・・・・・。」

自転車のタイヤの回る音だけが、むなしく鳴り響く。

登り始めて一時間程経った頃、オメガは初めて、自分の周りに異変があるのに気付いた。

「なっ!こ、これは!。」

なんと、周りの景色が徐々に霞んでいくではないか。緑の木々も次第に白くなっていき、視界がどんどん狭くなる。

「霧が出やがった・・・。」

オメガがそう思った時だった。

『フフフフ・・・・・。』

突然、何者かの笑い声が聞こえた。それも耳ではなく、オメガの心に直接響いてくる。その声は言った。

『フフフ、オメガと言ったな。貴様はオレの術中にはまっている。この霧はオレが作り出したものだが、あと30分で頂上付近を埋めつくす。それまでに頂上に行かなければ・・・・・・・・貴様ほどの男なら、どうなるかはわかろう。』

オメガは周りを見回した。しかし、人の気配は感じられない。

「き、貴様は何者だー!。」

オメガは霧の中で叫ぶ。だが、もう返事はなかった。

オメガに残された時間は30分!急がなければならない。

「よしっ。」

オメガは自転車に乗った。今まで歩いていたせいか、あまり足が疲れない。いくつもの山道を突破し、ひたすら山道を登るオメガ。一気に400メートルほど進んだ。が、ついにそこで力尽き、自転車を降りる。

「クソー、これは危ないかもしれない。」

オメガはそう言って、さっきよりも早足で自転車を押してゆく。その時だった。

『フフフ、どうした。そんな事では、あと二十分で頂上には着けんぞ。』

あと二十分!霧は次第に濃くなっている。オメガはアセりまくった。が、その時!今度は別の声がオメガの心に語りかけてきた。

『がんばって、頂上はもうすぐよ。今のあなたなら行けるはず。さあ、自転車に乗りなさい。』

女の人の声だった。オメガはこの声に聞き覚えがあった。そう、あの甲府の女の人だ。この人に励まされては、もうひとがんばりしないわけにはいかない。

オメガは自転車に乗った。

「よしっ、甲府パワーだ!。」

オメガは昨日、野辺山への道で使った甲府パワーを再び使うことにした。前述したように、甲府パワーとは例の女の人を思い浮かべることにより、根性を引き出す技だ。

オメガはその根性で坂を登っていく。一気に300メートル程進んだ。が、そこで再び自転車を降りる。

根性だけではもうダメだった。肉体が限界に達しているからだ。オメガはしばらく歩いて登っていくことにした。

それから一分もしないうちに、一台のバイクがオメガの後ろから現れた。バイクは通り過ぎると思ったが、急にオメガの横で止まる。

「あの、秩父市内に行くには、この道でいいんですか?。」

バイクの乗ってる男が聞いた。オメガはよくわからなかったが、つい、

「はい、そうです。」

と言ってしまった。

「どうも。」

再びバイクは走り出し、オメガから離れていく。

「久しぶりに人と会ったな。」

オメガはそう言うと、また坂道を登り始める。

と、その時だった。

『今よ!。』

またもや甲府の声が聞こえたのである。「今よ」とは「自転車に乗るなら今よ」という意味に違いない。そう解釈したオメガは、再び自転車に乗った。が、今までの甲府パワーでは、これ以上登り続けることはできない。そこで、ついに甲府パワー2が誕生した。

「甲府パワー、2。」

この甲府パワー2は、従来の根性に加え、肉体の能力を全て引き出す技だ。つまり、体のあらゆる部分から、一時的にエネルギーを集め、それを一気に爆発させるのだ。この時、ブドウを持った甲府の女の人が、目の前に見えることもある。

「シャカシャカシャカ。」

オメガは進む。太ももの筋肉が張り裂けそうになるが、不思議と足の回転は遅くならない。甲府パワー2。恐るべし!。

そのパワーのおかげか、一分程して前方に人影が現れた。

「あ、あいつは!。」

そう、絶対追いつかないと思っていたエイジが、オメガの目の前にいるではないか。彼も疲れたらしく、自転車を降りて歩いている。

「エイジー!。」

オメガは叫んだ。エイジはその声を聞き、わざわざ足を止めてくれた。

「おお。」

まさに奇跡の再会だった。二人は今までの苦労を語り出す。

「オレは甲府パワーで何とか登ってきたぜ!。」

「あっ、いいなぁ。」

何が「いいな」だ、おめぇだって・・・・・・・・とオメガは思った。

二人はしばらく道を歩いていく。が、エイジの方がまだ力が残っているようで、歩くのが速い。オメガは言った。

「エイジ、オレの事は構わず先へ行ってくれ。」

エイジは、そうする事が今のオメガにとっては友情なのだ、と思い、ためらわずに先へ行った。そして10メートルほど行くと、いきなり自転車に乗ってオメガの視界から消えていったのだった。

「また山頂で会おう。」

とオメガは思った。しかし、この時もう既に山頂近くまで来ていたのである。

 

登り坂が終わった。どうやら、やっと山頂に着いたようだ。霧の中を進んでいくと、車が一台止まっていて、その先にクマちゃんたちが待っていた。

「おーい。」

オメガは二人に近づいて自転車を止める。

「どのくらい待った?。」

「う〜ん、10分ぐらい。」

クマちゃんが答えた。

『三国峠・標高1828メートル』と書かれた物体がある。あんまり遅いので、クマちゃんはそこでちゃっかり写真を撮っていた。

写真8:ちゃっかりクマちゃん

「私はいつも写真を撮るばかりでつまらん!」、そう思ったクマちゃんが、他の二人に反撃を試みた一枚。それにしてもよく撮れてるなあ、コンニャロ!バックが見えないのは霧が立ちこめているせいである。

さらにクマちゃんが、

「エイジ、やったよ。ついに自転車を降りずにここまで登った。」

と言ったのには驚いた。まあ、それはいいとして、いよいよ下り坂に入ることになる。

「この下りは舗装してないからね。」

クマちゃんが言う。なるほど、道が先の方でジャリ道に変わっている。

「神様、お願いします。」

自転車に乗ったエイジが言った。エイジのタイヤは三人の中で一番細かったので、ジャリ道に耐えられるか心配だったのだろう。それに比べてオメガのタイヤは一番太かった。

「エイジ、悪いけど先行くぜ。」

そう言ってオメガはエイジの前を走ることにする。

「危ないから三人が離れないようにゆっくり行こう。」

クマちゃんはそう言うと走り出した。いよいよ死の下り坂が始まったのだ。

さっきの言葉はいったい何だったのだろう。クマちゃんはどんどん先へ行ってしまった。オメガはタイヤを心配する必要がないので、自分のペースで、それでもやや速いスピードで坂を下っていく。

問題はエイジだった。タイヤに気を使って慎重に進むため、どんどん二人から離れていく。先を走っていたオメガは、心配になってクマちゃんを呼んだ。

「クマちゃーん。」

遠くの方でクマちゃんが止まった。

「エイジが来なーい。」

二人は少しの間エイジを待つ。しばらくして、

「ガシャッ、ガシャバシッ!。」

とエイジの自転車の音が聞こえた。

「来た!。」

オメガはそう言うと再び走り出した。それを見てクマちゃんも走り出す。

それにしてもひどい道である。ジャリ道とは言っても、大きな石がゴロゴロしており、よそ見をすると自転車がどこへ行くかわからない。霧は晴れてきたが、腕などに霜がたくさんついて、急に寒くなってきた。

しばらくして、エイジがまた心配になり、オメガは自転車を止めた。クマちゃんの姿はもう見えない。オメガは止まったついでに、バッグからヨットパーカーを取り出して着た。

前にはクマちゃんがいて、後ろにはエイジがいて、よく考えるとオメガは非常にいい位置にいた。

「エイジが一番恐いだろうなあ。」

そんな事を思ったオメガは、その時ハッと気付いた。

「な、なんだ、この静けさは!。」

そう、いくら耳をすませても、小鳥の声さえしないのである。川の音もなく、風さえも吹いていない。

まさに究極の静けさ、アルティミット・サイレンス!

オメガはこのような状態を初めて体験した。

「ガシャッ、バシッ!バキッ!。」

しばらくして、エイジの自転車音が聞こえた。

オメガは自転車に乗ると、エイジが自分に気付くのを待ってから走り出した。

「オレができるのはここまでだ。がんばれよ!。」

オメガは心の中でそう思い、今度はかなりのスピードで坂を下っていった。ふと時計を見ると、五時を過ぎている。

「急がなければ。」

なるべくブレーキをかけないようにして、できる限り速く進んでいくオメガ。

それから十分後、オメガはとてつもなく急な下り坂に出くわした。普通の下り坂ならまだしも、大きな石がゴロゴロしているその坂は、オメガは不安にさせる。

「行くしかあるまい。」

オメガは思い切って坂を下った。

「ガタッガタッ、バシッガシッ!。」

すさまじい震動がオメガの体を襲う。と、その時、オメガは右のガケの方に滝の音を聞いた。チラッと見ると、大きな滝がうなりを上げて落ちている。

が、それがまずかった。

「ズザザザーーーッ!。」

いきなり自転車がバランスを崩し、オメガは道に放り出された。

「クソー、ちょっと気をゆるめると、いきなりこれかよーっ。」

オメガは立ち上がって再び自転車に乗る。その後は、もう二度とよそ見はしなかった。

急な坂が次第に平らになっていき、少し広い道に出ると、オメガは前方にクマちゃんがいるのを発見した。

「おお。オメガか。」

クマちゃんは自転車を降りて、のんびり休んでいた。オメガも自転車を降りて、近くの石に腰を下ろす。

「すさまじい道だなあ。」

「うーん。でも、あそこから舗装された道になってるみたいだよ。」

クマちゃんがそう言うので見てみると、先の方で道が確かに舗装されている。

「これならエイジも大丈夫だろう。」

オメガはそう言って、空を見上げた。夏だから五時過ぎでもまだ明るいが、あと一時間もすれば暗くなってくるはずだ。それまでにテントを張る場所を見つけなければならない。

オメガがここへ着いてから10分が経過した。が、まだエイジが現れない。

「どうしたんだろう。」

「ま、まさか・・・・・死・・・・・・。」

その時、坂の上に人影が見えた。エイジである。彼は自転車を降りて歩いてきた。

「タイヤ大丈夫?。」

「ああ、なんとか。」

エイジは疲れきっていた。オメガはエイジが少しイライラしているのを感じた。

「あそこから舗装道路みたいだからさ。元気出して行きましょう。」

クマちゃんはそう言って自転車に乗る。三人は再び出発した。

エイジはきっと、二人がどんどん先へ行ってしまったので、イライラしているにちがいない、そう思ったオメガは途中二度ほど止まってエイジを待った。

が、なぜか、そうする事がかえってエイジを侮辱しているように思えて、それ以降は自分のペースで走った。

道はどんどん暗くなっていく。舗装道路だと思っていたのに、出発してすぐに元のジャリ道に戻り、三人は完全に逆を突かれた。エイジを見捨てたオメガは、すさまじいスピードで進んでいた。そのせいか、遙か先に行っていたクマちゃんに、五分ぐらいで追いついてしまった。

「おっ、オメガさん、来ましたか。」

「やっと追いついた。」

その後、二人は話しながらゆっくり道を進んでいく。だいぶ下の方へ来たようで、川の音などが聞こえ始める。

それから十分程経った頃だったろうか。突然、二人の前方が真っ暗になった。

「ゲッ!なんだ!?。」

その暗闇の中に二人はどんどん吸い込まれていく。

「な、なんだこれはー!。」

と、その暗闇の中に、ポッカリと白い穴が現れた。

「なんだ・・・・トンネルか・・・・。」

二人はホッとしてトンネルを通り過ぎる。10メートル程度のトンネルだったが、二人とも自転車のライトが壊れていたため、少し恐怖を感じたのだった。

「これ、一人で通ったら恐いぜ!。」

「うむ。」

二人はエイジを心配した。

その後もトンネルは現れた。最初は角度が悪いせいか出口が見えず、まさに暗闇の中に吸い込まれていくような気がするのだが、中に入ってしまうと出口は案外近くにあり、余裕で突破できるのだ。

しかし、三回目のトンネルは少し違った。今までのトンネルより長さが長いのだ。二人はライトなしで突っ込んでいく。トンネル内は水びたしになっていて、ひんやりとしていた。

トンネルの中ほどを通り過ぎた時、いきなり前方に車が現れた。トンネル内で車とすれ違うのは危険だ、そう思ったオメガは、

「クマちゃん、一列になろう!。」

と言って、全力を出して自転車をこぎ始める。そのおかげで、なんとか二人は車に出合わずに、トンネルを通過することが出来たのだった。

「フーッ、危ねぇ。」

二人は再び先を急ぐ。空もずいぶん暗くなってきた。急がなければ・・・・・・。

と、クマちゃんがうれしい叫びをあげた。

「やった!林道が終わった!。」

そう、ついに舗装道路に出たのだ!。

 

林道があまりにひどかったため、舗装道路を走る二人はとてもリラックスした気分になった。

「は、走りやすい!。」

「感動〜!。」

力を使わなくても、タイヤがスムーズに動く。今までどれだけ体に力が入っていたかをオメガは実感した。

「そうだ、エイジどうしよーか。」

この時、二人はやっとエイジを思い出した。クマちゃんが言う。

「先にテントを張る場所を探して、そこで待とう。」

空はもう暗くなり、早くしないと完全な闇になってしまう。ここはエイジに耐えてもらうしかなかった。

「あいつは、ライトを持ってるから・・・・・。」

そんな事を言って二人はまた走り出す。

林道を抜けた後、二人はある村に入った。その村は家が多いのだが、どの家にも明かりがついていない。また、犬がやたら多く、しかも放し飼いになっている。

「何か不気味だな。」

「うーん。人の気配がしないね。」

二人はさらに進む。と、左側にアパートのような建物が見えた。手前には四、五匹の犬がうろついている。が、二人はすぐにそのアパートの異変に気付いた。

「あ、あれは!。」

「ガ・・ガラスが・・・・・・!。」

そう、アパートのガラスが全て粉々になっていたのだ。つまり、人は住んでいないのだ。

「この村はまさか・・・・。」

「犬の支配する村・・・・。」

二人はアセリまくった。早く、この村を出なければ・・・・・・!。

そんな時、クマちゃんが言った。

「そう言えば以前聞いたことがある。人の帰らない村というのがあると・・・・・・・。その村の人々はある特別な土着信仰をもっていて、訪れる旅人を仲間にむりやり加え、村に幽閉するという・・・。

現に、いくつかのそういう村が発見されているらしい。」

オメガはビビった。

「おい、ちょっとやめてくれよ、こんな暗い時に・・・・。」

だがクマちゃんは続ける。

「いろいろ警察が調べてるみたいだけど、まだそういう村はあるんだって・・・・・・・まあ、この村は大丈夫だと思うけどね。」

まわりの景色がいっそう暗くなったような気がした。自転車に乗っていてよかった、とオメガは思った。

さて、しばらく進んでいくと川があり、そこにテントを張れそうな場所がある。既に、ある家族がテントを張って火を起こしていた。

「ひとまずここにしよう。」

エイジが来たとき困るので、オメガが上で待つことにして、クマちゃんだけ河原へ下りていった。

しばらくしてクマちゃんが戻ってくる。

「石をどかせば、なんとかなりそう。」

そこでオメガも河原に下りてみた。なるほど下は砂地で、少なくとも昨日よりは寝心地が良さそうだ。

「よし、テントを張ろう。」

二人は自転車の方に戻る。空はあともう少しで完全なダークネスになりそうだった。

二人は自転車から荷物を下ろす。と、その時だった。

「カシャカシャカシャ。」

自転車をこぐ音が聞こえる。二人は、自分たちが通ってきた道の方を見た。暗闇の中に小さなライトの明かりが見える。

「ついに来たか、エイジ。」

頭にヘッドランプをつけ、いつもの青いシャツを着ているその男は、紛れもなくエイジだった。エイジは二人に近づいて自転車を降りる。しかし、どことなく顔に生気がない。

「どうした。」

「いや、疲れただけ。」

エイジはそれ以外何も言わなかった。暗い雰囲気が漂う。

三人は河原に下りてテントを張り始めた。エイジも手伝ってくれたが、やはり生きているという感じがしない。オメガはむしろ死の臭いを感じた。”死”?・・・・・・・・・・その時オメガは、ふと古文書にあるゾンビ伝説を思い出した。ゾンビというのは呪術によって生き返らされた死体で、主人の言う事は何でも聞く奴隷のような人間・・・・・いや化け物だった。ある学者によると、ゾンビは普通の人間のように動くが、顔に血の気がなく感情もないと言う。

今のエイジと似ている。オメガは突然言った。

「貴様、ゾンビだな!?。」

しかし、その時エイジは自転車に荷物を取りに行っていたので、その声は聞こえなかった。

「待てよ・・・・・。」

オメガはふと思った。

「ゾンビは塩を与えると、元の死体に戻ってしまうと聞いたことがある。今日の夕食のメニューは、おそらく『ごはん』と『コンビーフ』。さらに夜食にラーメンが用意してある。奴がゾンビなら、これらを食べて、ただでは済むまい!。」

オメガは夕食の時間を待つことにした。

さて、テントを張り終えると夕食の用意が始まる。案の定、今日のメニューはごはんとコンビーフ。

エイジが食事の用意をし、クマちゃんは隣りの家族に対抗して火を起こしていた。

この辺の木々は川の水で湿っていて、それ自体では燃えにくい。そこで、クマちゃんは何やら油のような物を取り出し、それをまいて火をつけた。

「ボボーッ。」

たちまち油に火が移り、たき火程度の火が燃え上がる。

「やったね、クマちゃん。」

「いや・・・・たぶん、この油が燃え尽きたら終わりでしょう。」

クマちゃんの言う通り、二、三分もすると油が切れて火も消えてしまった。仕方なく三人は一つのランプと二つの懐中電灯の中で飯を食う。

オメガはエイジに注意しながら飯を食っていた。

その微妙な動きを見逃さないよう、ごはんを食べつつも目だけはエイジの方に向ける。ところが、エイジはコンビーフ、ラーメン、と食っていくにつれて、しだいに活気を取り戻していく。

「フッ、オレの考えすぎか。」

オメガはやっと安心したのだった。

周りの景色が完全に暗くなった。まさに絶対的な暗黒、アブソリュート・ダークネス!空には三日月があったが、その月明かりさえ届かない。

三人は飯を食べ終わると、すぐにテントの中へ入った。

「ああ、もうダメだ。今日は疲れたから早く寝よう。」

三人は皆、そんな事を言って横たわる。さすがに、今日は会話をする元気がない。ゾンビのエイジはすぐに寝てしまった。オメガとクマちゃんも、眠くなるまで話そうという事だったが、10分もしないうちに眠ってしまう。

こうして四日目の夜が過ぎていくのだった・・・・・・・・・・・・

  

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「素朴な出合い」

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